Azitas Methodアジタスのメソッド

Azitas MethodBtoBにおける与件整理のプロセスと作り方

Azitas Method アジタスのメソッド

近年、BtoBマーケティングの注目度が急激に上がってきたことに伴い、
BtoCと比べると少なかったノウハウやツールも増え始め、
参入の敷居がぐっと下がってきました。
しかし、BtoBマーケティングプロジェクトを新たに立ち上げようとすると、予想していた以上の難しさ、
そして身動きの取りにくさを感じることでしょう。
実はここには、BtoB企業が抱える、根本的な問題が隠れています。

弊社も数多くのWebマーケティングプロジェクトのお手伝いをさせていただきましたが、
殊にBtoB業態のクライアントにおいて与件の整理がスムーズに進められていないケースも多く見てきました。
本記事は、BtoB企業が陥りやすい失敗例の紹介に合わせて、
新たにBtoBマーケティングプロジェクトを開始しようとしている担当者が、
与件整理を行う際に注意すべき点について解説していきます。

01市場・ターゲットを誤っているケース

  • 代理店の顧客を奪う、
    カニバリゼーションの発生

    生産財メーカーのA社。
    新規顧客獲得数の伸び悩みが課題となっており、マーケティング部門のBさんがこれを改善するためのWebプロジェクトを担当することになりました。A社の主力商品は、製品C(定価10,000円)。
    これを新規顧客へアピールするため、新たに自社で通販サイトを開設し、定期的な初回購入割引キャンペーンを実施しようと考えています。
    この製品はすでに独立系代理店Dが8,000円で通販を行っています。

    さて、この時A社の通販サイトでは、製品Cのキャンペーン価格をいくらとすべきでしょうか?
    代理店Dより高ければ、この通販サイトでの販売促進は望めません。
    安ければ、自社サイトで購入してくれる顧客は増えることでしょう。
    しかしその顧客は、どこからやってくるのでしょうか?…そう、代理店Dの顧客が、こちらへ移動してきただけです。
    これでは最終的な売上金額はさほど変わらない上、代理店Dの売上を奪い、不満を生む結果にしかなりません。代理店Dの担当者、営業部門のEさんに「待った」をかけられてしまいました。このような事態が発生してしまうのでは、自社のWebサイトを開設する意味はあるのでしょうか。

  • 販売チャネルごとに、
    狙うターゲットを分散させる

    このケースの問題点は、ターゲティングの失敗にあります。
    製品の販売促進を考えようとすると、つい「いかにして買ってもらうか」という視点にばかり陥りがちです。
    こうして購入検討段階にある顧客をターゲットにすると、価格やお得感など、購入のための比較軸での競争になり、競合相手だけでなく、自社の他流通チャネルとも顧客の奪い合い、いわゆるカニバリゼーションが発生してしまいます。

    これが社内だけの問題であればプロジェクトの方向転換だけで済むかもしれませんが、代理店などの外部協力者を巻き込んでしまうと、モチベーションや信用の低下、取引関係の解消など、より深刻な問題へつながりやすいのです。

    新規顧客と一口に言っても、製品のことを全く知らない層、必要性に気づいていない層、今はまだ購入のタイミングではない層…とさまざまです。
    ここで自社サイトが取るべき作戦は、既存の販売チャネルと同じターゲットを狙おうとすることではなく、顧客の購入プロセスのより前の段階を狙って、ターゲット層を分散させ、広げていくことです。

多くの企業が考えるターゲットとはここだけ

BtoB顧客の購入プロセスとターゲットの関係
フェーズ 問題の認知 調査 解決策の把握 サービス提供者の
把握
購入プロセスの
決定
決裁
特徴 自社はこの商品やサービスと出会っていないが、マス媒体や周囲の紹介などで知ることとなり、「検討必要性」を感知し興味を持ち始める。 基礎的な情報を収集し概要を掴むフェーズ。課題やニーズに同調した結果、さらに調査が必要と判断。担当者を決定する。 サービスについて理解を深めると同時に、解決策が自社の現状に即しているのかを検討する。 複数のサービス提供社から絞り込むための情報収集。この時点ではある程度の目利きになっているため、根拠や方針を持って検索をしている。 失敗を防ぎ、成功を確実にするための、自社にとっての導入プロセスを確定させる。 会社を代表して問い合わせをするため、慎重にことを運ぶ。集めた情報の集大成として、決裁者に判断を仰ぐ。
施策例
  • なし
(偶然の気づき)
  • SEO
  • コンテンツマーケティング
  • 製品情報の充実
  • FAQ
  • 資料請求
  • 過去実績の充実
  • サンプル、デモ
  • 見積り
  • キャンペーン

潜在ユーザの数

主に代理店がまかなうのは、プロセスの最終段階である販売のためのフェーズのみと考えてよいでしょう。
それより前の段階は、商品の魅力や必要性を認知させる、プロモーションのフェーズであり、そもそも代理店が関われる領域ではないためです。それならば自社サイトの役割は、「販売」にこだわって代理店と競い合うよりも、こちらへ特化していくべきです。
つまり、このケースの正解の一つは、キャンペーンの割引価格にこだわることではなく、新規顧客向けに製品Cの使い方などのコンテンツを展開していくこととなります。サイトからの販売に繋げたいのなら、代理店Dを紹介するだけで充分です。

もちろん、プロセスの前段階へ遡るほど顧客の購買意欲は下がっていき、成約率は下がり、顧客獲得コストも増加していく傾向にあります。
しかし、だからこそ同業種の競合が少ない商圏へ仕掛けていくことができるという利点もあります。
どこまでをターゲットの範囲に含めるのかは、実際の予算や獲得コストとの兼ね合いを見ながら検討していきましょう。

02潜在リスクを見落としているケース

  • プロジェクトが生み出すものは、
    利益だけではない

    代理店Dが被るリスクに気づかず、通販サイトプロジェクトを進めようとしていたマーケティング部門のBさんは、途中で代理店Dの担当者、営業部門のEさんに「待った」をかけられてしまいます。
    仕様を決める段階で偶然Eさんの耳に入ったのが幸いして、早期に方向転換をすることができました。
    もしこの発覚がもっと遅い段階であったり、通販サイトが実際にオープンした後だったとしたら…プロジェクトの遅延や、代理店Dとのトラブルに発展していたかもしれません。

    今回の例は単純なケースですが、実際の現場はもっと多くの立場が絡み合い、このようなリスクの見落としは頻繁に発生しています。

  • 販売チャネルごとに、
    狙うターゲットを分散させる

    そこで重要なのが、ステークホルダを的確に把握し、総合的な満足度を高めていくことです。
    ステークホルダとは「利害関係者」。プロジェクトに関わることにより利益、または損害が発生する立場のことを指します。
    プロジェクトの目標、目的だけを考えながら進めていくと、このように隠れた因果関係による損害の発生を見落としてしまう危険があります。
    顧客との強固な連携を重視するBtoBのビジネス構造において、利害関係の整理は避けて通れない問題となります。
    利益側に関しては、プロジェクトの目的とも共通する、顕在的で分かりやすい要素であるため、問題はないでしょう。しかし、損害側のほうは潜在的で、その洗い出しは一筋縄では行きません。

    そこで、利害関係の一覧化に便利なのが、ステークホルダのリスト化です。こちらは、「初回購入割引キャンペーン」を例にしたリストです。
    新規顧客向けキャンペーン一つを取っても、与える影響は各方面に渡ることが分かります。
    こちらの例はかなり単純化してあるものですが、実際はステークホルダ同士の関係が複雑化するにつれて、潜在リスクが見つけにくくなったり、リスクの対応策が別のステークホルダにとっての新たなリスクになったりと、どんどん把握が難しくなってきます。表で管理することで一覧性が増し、また認識の共有も行いやすくなります。
    充分に洗い出せているか不安という場合は、最初に洗いだしたメンバーに対して、他に確認しておくべき要素や、心配ごとなどを質問してみると良いでしょう。例示した以外に有効な項目としては、ステークホルダの人数、賛成・反対の度合い、彼らが被るメリット(利益)やリスク(損害)の度合い、リスクの対策方針などが考えられます。
    必要に応じて、項目を調整してください。

ステークホルダ リスト化の例  ~プロジェクト名:初回購入割引キャンペーン~
ステークホルダ 関心事 与える影響 具体例 重要度
ターゲット
(新規顧客)
製品の魅力、お得感
  • キャンペーンによる購入意欲喚起
-
既存顧客 製品のお得感
  • キャンペーン対象外による不満
-
運用部門 新規顧客獲得
  • 新規顧客獲得による業績の向上
  • キャンペーン関連作業の発生
    (サイトの更新、DM、広告など)
マーケ部Bさん
連携部門 優良な見込み顧客の獲得
  • 顧客対応の機会が増加
営業部Eさん
代理店 自社の業績向上
  • 自社顧客の流失
代理店D
役員 業績の向上
  • 新規顧客獲得による業績の向上
  • キャンペーン広告費の発生
G社長

赤文字はマイナス影響

実際表にしてみると、マイナスの影響は予想以上に広範囲にわたることに気づきます。
現実的に考えて、すべてのステークホルダにプラスに働くプロジェクトというものはほぼ実現不可能です。
このマイナス要素をいかに軽減していくか、という視点で進めていくのがプロジェクトの進め方の基本です。

また、目指す利益(目標、KPI)に関しても注意点があります。
ステークホルダそれぞれの立場によって、望む利益は多岐にわたりますが、その全てを追いかけようとしないこと。コスト削減、新規顧客の獲得、既存顧客の満足度、低予算、短期成長、利益も売上も…ステークホルダが増えるにつれて、さまざまな立場からの意見が増えてくるでしょう。

しかしこれらを全て取り入れていこうとすると、お互いに矛盾する要素が出てきてしまいます。
目標は多くても3つまでに絞り、プロジェクトの方向性のブレを防ぎましょう。

03仕様詰めが甘いケース

  • 「やりたいこと」の一人歩き

    主力製品Cの割引は、代理店Dとの兼ね合いもあり一旦見直し。
    代わりに、まだWebの販売チャネル上では扱っていない、新製品Fを使ってキャンペーンを行うことを思いついたBさんは、さっそく準備にとりかかります。

    しかし、ここで1点問題が出てきました。
    この新製品Fには、定価というものがありません。
    顧客の要望に応じて、カスタマイズを行った上で販売するタイプの製品なのです。顧客によって販売価格が変わるため、一概に価格を掲載することができません。
    そこで、製品Fに関しては販売カートではなく、見積もり用フォームを用意することにしました。…ところが、また営業部門Eさんからの指摘が。
    顧客の要望を汲み取るには見積り用フォームでは足りず、毎回、営業部門が訪問を行い、現場の環境を確認する必要があるとのこと。Bさんはそんな事情を知りませんでした。
    もし、海外から見積り依頼が来てしまったら、どう対応しますか?
    この製品F、Webで売る意義はあるのでしょうか?

  • 「決める」ための体制を作っているか?

    「売りたい!」という目的ばかりが先行し、実際には実現不可能だったり、実現する意味がなかったりするケースが散見されます。
    今回のBさんのように独断で決めてしまうことはなくとも、プロジェクトメンバー間でうまく意思疎通が行わなければ、決めるべきことや検討すべきことが曖昧なままにプロジェクトが進んでしまい、あとからトラブルが発覚、混乱してしまうことになります。
    また今回の例では、”部外者”であるEさんからの指摘が、何度も発生して手戻りしまっているのも問題点。プロジェクトの運用によって大きな影響を受ける営業部門は、最初から意思決定者の一人としてプロジェクトメンバーの中に加えておき、意見交換を行うべきです。

    ここで必要なのは、プロジェクトの仕様を固めていくための体制を定めること。必要な意見がきちんと出揃い、かつ意思決定をスムーズに進めるためには、意思決定者を明らかにしておくことです。

    意見の収束は、発言者やプロジェクト対象者の人数に比例してどんどん難しくなり、物事を一つ決めるのにも多大な労力を必要とします。
    多くの立場の意見を聞きながら、それをすべて取り入れていこうとすると、プロジェクトはどんどん肥大化していきます。
    未確定要素も、手戻りやリスクの発生の危険も雪だるま式に増えていき、企画の善し悪し以前に、プロジェクトの進行そのものに支障をきたしてしまいます。

    これを防ぐためには、最終的な発言者を絞り込む、という対応策しかありません。
    まずは、プロジェクトの体制を表す樹状図を作成してみましょう。

プロジェクト責任者 社長 営業部門 主力製品C担当チーム 新製品F担当チーム 代理店D担当者 マーケティング部門 通販サイト更新担当者 技術部門 主力製品C開発チーム 新製品F開発チーム 通販サイト制作委託会社

会社の組織図に近いものですが、プロジェクトのための樹状図にはステークホルダが並び、樹状図の頂点は社長・CEOではなく、プロジェクトの責任者となります。
これは、社長よりも強い発言権を持つという意味ではなく、責任者は常に、社内の意見を統括しておく必要があるということです。
このルールは、大きな発言力を持つ経営層の方々にも同様に理解してもらう必要があります。各要素(ノード、交点)には責任者を一人ずつ設定し、一つの会議での意思決定者を、多くても3人程度にまで絞り込むことができれば、会議も随分とスムーズに進められるようになるでしょう。

さらに一覧化することによって、プロジェクトに参加するメンバーにとっても、誰が責任者なのか把握しやすくなるメリットもあります。
メンバー間での共有用にも活用していくことが可能です。

04プロジェクト運用の体制づくりができていないケース

  • 現在の体制で、プロジェクトを
    運用していくことはできるか?

    BさんはWebサイトの役割を見直し、通販機能を備えつつも、新規顧客開拓のためのコンテンツマーケティングをメインとしたサイトへ方向転換をすることにしました。
    これなら、既存の販売チャネルとのカニバリゼーションが発生する心配もありません。

    さて、コンテンツマーケティングということは、定期的な記事の更新が必要となってきます。普段、自社サイトの更新を行っているのはマーケティング部門なので、とりあえず主担当は同部門としていました。
    しかし同時に、新規顧客からのお問い合わせ数増加が予想されますので、営業部門へ専門のお問い合わせ対応窓口を作っておいてもらうことが必要かもしれません。
    さらに記事の内容は、潜在顧客へ自社の技術力をアピールするために、専門知識の入ったものにしたいというお達しが。
    それならば技術部門から、知識を持っていて記事の執筆ができるメンバーを探してこなければ…

    紆余曲折の末、なんとか記事の公開にこぎ着けると、その内容に感銘を受けた顧客がさっそくお問い合わせをしてきました。
    営業部門が応対しようとしましたが、顧客は技術部門でなければ分からないような、専門知識を交えた話をしています。
    さて、誰が応対すればよいのでしょう?

  • 「やりたいこと」だけでなく、
    具体的な作業の洗い出しを

    前項とも重なる部分もありますが、プロジェクトの当初の目的だけを見て、作業分担を怠っているケースも多く見られます。
    プロジェクトの目的や作業内容に沿った運用者を決める、という作業は、想像以上に複雑かつ重要な工程です。
    必要作業の洗い出しとともに、前項で作成した樹状図を見ながら、その作業が運用できる体制にあるのかどうか、入念な検討を行ってください。

    とくに、今まで自社になかったアプローチを新たに始めようとしている場合、今存在しているどの部門に任せるか、それとも、プロジェクトのために最適化されたチームを新たに結成するか、というところから考える必要が出てくるかもしれません。
    体制づくりを考えるとき、まずはプロジェクトの運用において発生する作業の洗い出しから始めなければいけません。

    この工程の厄介なところは、実作業の洗い出しは大抵の場合、成果物や目標が確定したあと、与件整理の後半にならないと着手できないという点にあります。場合によっては、施策の提案をWeb企画会社に一任しており、提案をもらうまでは何をすべきなのか把握できない、というケースもあるでしょう。企画会社へ丸投げの状態にしていると、いざ実施という段階になってつまづく恐れが出てきます。
    積極的な情報共有の機会を設け、自社内で行うべき作業は何なのか、早めに共有してもらうようにしてください。

05まとめ

BtoB マーケティングプロジェクトの与件整理で間違えがちな4要素 市場・ターゲット 自社の中にある既存チャネルの確認不足 既存チャネルと同じターゲット層を狙うのではなく、層を広げていく 潜在リスク プロジェクトの利害関係者の洗い出し不足 重要なステークホルダを洗い出し、リストで一元管理 目標と仕様のズレ 「決める」ための体制ができておらず、コミュニケーションが不足 樹状図によって意思決定者を絞り込み、スムーズな会議を 運用者 プロジェクトを運用するための体制ができているかの確認不足 具体的な作業を洗い出し、自社の現体制と照らし合わせる